グリストラップの清掃方法をプロがわかりやすく解説!

グリストラップの清掃は体力的にも精神的にもきつい作業ですが、食品を扱う施設であれば必ず実施しなければいけません。ただし、業者の清掃技術によって、日々のメンテナンスが非常に楽になる方法もありますので、今日はそのあたりも含めてお話させていただきます。

なぜ、掃除しなければいけないのか?

  • 下水道法
  • 水質汚濁防止法
  • 食品衛生法(HACCP)
  • 各自治体の条例

上記法律や条例により、すべての飲食店や油を排出する施設でグリストラップの清掃が義務付けられています。下水道法や水質汚濁防止法では、基準値以下の水質(油脂分30mg/L以下)で排水しなければいけません。食品衛生法(HACCP)では、食品の安全を確保するために各店舗でリスクの分析や清掃管理が求められます。

グリストラップに関連する法律については、以下の記事で詳しく解説しています!
» グリストラップの法律や設置義務について

水質汚染の原因は、特殊なモノを作る工場から排出されるドロドロの汚水をイメージするかもしれません。しかし実はレストランや居酒屋、さらに家庭から排出される「生活排水」も大きな原因となっています。各施設で排出された汚れた水は、浄化槽や下水道を経て下水処理場を通り、最終的に河川に流れ着きます。下水処理場では流入部で大きなゴミを取り除き、一次処理施設で油や細かいゴミを浮かせたり沈めたりグリストラップのような処理をします。二次処理施設では微生物を使って有機物を分解し、最終的に消毒施設で病原菌などを殺します。こうやって文章だけを見ると「下水処理場で綺麗にしてくれるから、汚い水を流しても良いじゃん」って思うかもしれませんが、実際は下水処理場の処理能力にも限界があります。毎日すごい量の排水を一定のスピードで処理しなければならず、時間やコストの問題で完璧に綺麗な水にはなりません。

そうするとやはり、私たち一人ひとりが綺麗な水を排水することを意識しなければいけないということです。地球上には水がおよそ14億㎦あると言われていますが、そのうちの97.5%は海水で、私たちが使える水は残りのたった2.5%の淡水しかありません。しかも淡水のほとんどは南極や北極などの氷河であり、実際に利用できるのは地球上の0.01%の水です。その地球上のわずかな水を大切に使うために、グリストラップの定期的な清掃は非常に重要だということです。

グリストラップはゴミや油脂が溜まる部分なので、どうしても不衛生になります。清掃を怠ると嫌な臭いが厨房中に広がり、さらにはゴミや油脂を温床として害虫が発生します。そんな場所で生息する害虫が厨房で飛び回り、食器や調理器具に触れることで、サルモネラ菌や大腸菌(O-157など)、バチルス・セレウス、黄色ブドウ球菌などなど、様々な食中毒の原因となります。

グリストラップの清掃を怠ると、少しずつ油が固まり、汚れが蓄積していきます。グリストラップの処理能力も低下していき、しだいに配管にまで油や汚れが流れ始めます。当然、配管に流れた油や汚れも蓄積し、少しずつ詰まりが発生します。少し詰まったぐらいでは水が流れるので気づきませんが、ある程度詰まったところで大量の排水が流れると、グリストラップが排水を処理しきれず、大量の汚水が厨房内に溢れかえる(オーバーフロウ)ことになります。また、詰まった配管を修理するまで営業を停止しなければいけないため、売上の損失につながります。配管の閉塞が下水道であった場合は、水道局から高額な修理費を請求される可能性もあります。

グリストラップの構造の詳細

グリストラップの構造

グリストラップの構造は、主に5つの部位で成り立ちます。マンホールやグレーチングなど足場となる「蓋」、汚水を受け入れる「流入区画」、残飯や生ゴミなどを捕獲する「バスケット区画」、油脂や汚泥を分離する「分離区画」、分離された水を排出する「排出区画」です。各メーカーごとに特徴はありますが、基本的な仕組みは同じです。

蓋(ふた)
グリストラップの蓋(ふた)

グリストラップは床に埋め込まれているタイプが多く、蓋部分が床と一体となります。この部分がシンプルなマンホールタイプだったり、側溝と一体型のグレーチング(歩道や車道で使われる格子状の金属製のカバー)だったり、設置場所やグリストのタイプによって変わります。埋め込みタイプのグリストの場合、この蓋に人が乗っても安全なように、「滑らない」「落ちない」ことが最重要です。シンク下など、床上に設置するタイプであれば、蓋の上に人が乗ることはないので、強度もそこまで必要なく、逆に軽くてマグネット仕様になっているなどの使い勝手が求められます。

流入区画
グリストラップの流入区画(第1槽)

シンクや側溝に流れた汚水は、流入口からグリストラップへと流されます。この部分はシンクなどから配管でつながる「パイプ式」と、床下を流れる側溝からそのまま接続される「側溝式」の2種類が主流です。パイプ式はコンパクトで省スペースなので、小さい厨房でも設置できるのが特徴。ただし、パイプ内の清掃は特殊な工具や専門の業者に依頼する必要があります。側溝式は大きな厨房で設置されていることが多く、大量の油脂や固形物を処理するのに適しています。清掃部分の面積が多いので大変ですが、逆に蓋を開ければ誰でも清掃できるというのはメリットのひとつです。また、パイプ型はグリストラップの側面の穴から汚水が流れるので、グリストラップは床から近い位置になりますが、側溝式はグリストより高い位置から汚水が流れてくることになるので、グリスト自体の高さが低くなります。

バスケット区画
グリストラップのバスケット区画(第1槽)

パイプや側溝などから流れてきた汚水を最初に受け入れるのが、バスケット区画となります。バスケットには米粒より少し小さい穴があいており、大きな生ゴミや残飯だけをキャッチし、油脂や小さいゴミだけの汚水を次の区画へ送ります。バスケットは簡単に取り外しできるので、できるだけ毎日外してゴミを捨てるのが理想です。取っ手が可動式になっていたり、特殊なバスケットの形で水流を整える働きがあったり、メーカーごとの工夫が見られる部分です。

分離区画
グリストラップの分離区画(第2槽)

バスケット区画と分離区画の間には仕切り板(取り外し可能)があるので、バスケットと仕切り板にぶつかって水流が整えられ、この分離区画に緩やかな汚水が流れてきます。分離区画では、水から分離した油が表面に浮上し、小さいゴミは少しずつ底に沈んでいきます。水と油では分子間力(油は油、水は水で引っ張り合う力)が異なるため分離し、さらに油は水より軽い(比重が小さい)ため表面に浮き、重いゴミや汚泥は沈んでいくという物理現象を利用したこの構造がグリストラップの本質です。また、分離区画の底には小さい仕切り板(固定タイプが多い)があり、沈んだゴミが次の区画へ流れづらい仕組みになっています。大型のグリストラップでは、この分離区画が2つあることが多く、一般的な3層式と比べて4層式と呼ばれます。

排出区画
グリストラップの排出区画(第3槽)

分離区画を経て油やゴミが処理された水を排水するのが、この排出区画。ここには「トラップ管」が設置されており、トラップ管を経て汚水が排水されていきます。トラップ管はU字やS字になっており、常に一定の水が溜まる仕組みになっています。これを封水(ふうすい)と言い、これがあるおかげで排水管の臭気や有害ガスの逆流、また害虫の流入を防ぐことができます。トラップ管には蓋がついていますが、これは水を流すためではなく、簡単に中をチェックしたり、掃除をしやすくするためです。この蓋がないと臭気が漏れ、油脂や汚泥などの異物が混入するため、掃除が終われば必ず蓋を閉めておく必要があります。

グリストラップの清掃方法

清掃の準備をしよう

グリストラップの清掃に必要な道具は、体を保護するためのマスクやエプロン、使い捨ての保護手袋です。バスケットや仕切り板の掃除で手を切るなど怪我の予防の意味もあります。また、表面に浮いた油脂を汲み取る場合は、長い持ち手のすくい網(ストレーナーなど)と、すくった油を保管するための容器が必要です。そのままゴミ袋に入れて一般ゴミとして捨てている店舗もありますが、すくった油脂や汚泥は産業廃棄物として処理しなければいけないと法律(廃棄物処理法)で定められています。ただし、月1回の石鹸化工法「グリピカ」による業者清掃を実施していれば、油脂の多い業種でなければ油脂をすくう必要はないので、すくい網や専用の容器は不要です。基本的にデッキブラシでは油汚れは落ちないので、日々のメンテナンス清掃で準備する必要はありません。

バスケットの掃除

グリストラップの蓋を開けたら、まずは生ゴミや残飯が溜まっている第1槽のバスケットを掃除します。メーカーにもよりますが、基本的にはフックにひっかかっているだけで簡単に外せるようになっています。バスケットが深い位置にあって手が届かない場合は、先にフックのついた長い棒などで外すようにしましょう。バスケットの中身はゴミ袋に入れ一般ごみとして捨てて良いですが、油の多い業種であったり、まったく掃除をしていなかったり、このゴミにも油がたっぷり付着している場合は、一般ゴミではなく産業廃棄物として処理したほうが良いでしょう。バスケットは水でしっかり流しつつ、網目に詰まりがないか確認しておきます。硬いブラシで擦ると網目が潰れたり開きすぎてしまう可能性があるので注意が必要です。

浮いている油脂をすくう

油の排出が多いラーメン屋や中華料理屋などは1日1~2回、通常は週に1回ほどすくっておけば問題ありません。すくった油脂は専用の容器に保管しておき、産業廃棄物の処理業者に処理を委託する必要があります。業者に清掃を依頼している場合は、その業者に保管方法などを確認しておきましょう。ただし、定期的に石鹸化工法で業者清掃をしている場合は、グリストラップの機能が正常に機能するため、自分で油脂をすくう必要はありません。逆に廃油がないと石鹸化できないので、石鹸化工法の導入を検討している方はそのままにしておきましょう。

底に沈んでいる汚泥も月に1回ほど処理する必要がありますが、月に1回などのペースで清掃業者に依頼している場合は自分で何かをする必要はありません。

部品を確認して蓋を閉める

バスケットは正しく設置されているか、仕切り板はきちんと差し込まれているか、トラップ管の蓋がはめ込まれているか、槽内に手袋など掃除用具が残されていないか等を確認し、グリストラップの蓋をしめましょう。使った道具をきちんと中性洗剤などで洗ったあと、保管場所へ戻します。清掃したあとの手洗いを必ず行い、特に調理担当の方であれば除菌殺菌はしっかりと行いましょう。

グリストラップ清掃でやってはいけないこと

お湯、洗剤、乳化剤で油を流す

熱いお湯や中性洗剤、また油を溶かすための乳化剤などを使って掃除をすると、グリストラップ槽内は確かに綺麗になります。しかし、お湯や洗剤や乳化剤で水と混ざりあった油は時間が経つと自然に分解され、下水や河川に環境汚染の排水が流され、固まった油は配管詰まりの原因になります。特にお湯や熱湯はダメで、せっかく凝固してグリスト槽内に浮上していた油脂類までもが液状化して流れてしまい、奥の配管でまた固まってしまいます。

グリストラップ清掃の便利アイテムとして今は様々な洗剤や乳化剤が販売されていますが、そのほとんどが環境汚染や配管詰まりの問題をクリアできていません。グリストラップ槽内がギトギトでどうしようもないときは清掃業者に依頼するか、どうしても自分でなんとかしたい場合は油脂を掬って専用ケースで保管が良い。ちなみに石鹸化工法であれば、油が再分離することはないので、配管詰まりや環境汚染のリスクなくそのまま排水できます。

油脂や汚泥を一般ごみとして捨てる

基本的にグリストラップがきちんと機能していれば、油の量が多くても油脂や汚泥を自分で掬う必要はありません。1ヶ月に1回、清掃業者に依頼して油脂や汚泥をバキュームしてもらったり、石鹸化工法で丸洗いしてもらったりしていれば問題はないかと思います。しかし、日々清掃をしていなかったり、清掃業者がきちんと清掃してくれない場合、グリストラップに汚れが蓄積し、処理能力が落ちて油脂や汚れがどんどん蓄積する状態になります。そのときの対処法として自分で油脂や汚泥を掬う人がいるのですが、それを一般ゴミとして処分してはいけません。これは法律で決まっていて、油脂と汚泥の両方の処分許可を受けている産業廃棄物処理業者に委託しなければいけません。定期的に来てくれる清掃業者に処分を委託するのが一番カンタンだと思うので、引き取りのタイミングや保管容器について相談してみましょう。

大量の水や高圧洗浄で汚れを落とす

私が調査した中で、清掃業者に「中途半端に流すと詰まるから30分以上水を流し続ければ綺麗になるよ」と言われて、毎日大量の水で汚れを流して清掃する店舗がありました。たしかに、トラップ管の下側の蓋を閉め、バスケットや仕切り板を外しておけば、大量の水とともに油や汚れが流れて綺麗になります。高圧洗浄であれば、実際汚れもかなり落ちます。しかし、流れた先にある配管の汚れは完璧に取れずに蓄積していくので、リスクのある清掃方法だと思います。グリストラップの先に浄化槽がある場合は、そこを清掃業者に依頼して綺麗にしてもらっていれば大きなトラブルにはならないと思いますが、浄化槽もなくそのまま下水に流される場合は注意が必要です。

硬いブラシでこする

グリストラップ槽内は基本的に油まみれなので、几帳面な方は硬いデッキブラシなどでゴシゴシこすってしまう人もいるかと思います。グリストの素材にもよりますが、ブラシでこすって細かい傷がつくと、その部分に汚れが蓄積しやすくなり、余計に掃除が大変になります。環境に悪い大量の洗剤などを使わない限り、ブラシがドロドロになるだけでそれほど綺麗にもならないので、おすすめしません。特に第1層のバスケットは取り外して清掃しますが、このとき硬いブラシでこすると、網目が潰れてしまったり、逆に開きすぎてしまう可能性もあります。バスケットの目は大きすぎても小さすぎてもダメで、米粒を受け止められる大きさが理想とされています。定番の素材であるステンレスであればめったに壊れることはありませんが、よほどの詰まりでない限りゴシゴシ擦る必要はありません。

便利なアイテムを使う

今は便利な世の中になったもので、グリストラップ清掃の便利グッズがたくさん販売されています。そのような商品を活用するのは良いことだと思いますが、中には怪しい商品もあったり、使い方に注意が必要な商品もあります。たとえば、槽内に特殊な洗浄剤を入れて30分放置すると、汚れが分解されてそのまま流せると謳う商品で、成分がただの中性洗剤(界面活性剤)というものがありました。そのときはたしかに綺麗になりますが、時間がたつと再分離して油に戻ります。また、パックを入れるだけで油脂を吸着してくれるという商品もありますが、産業廃棄物として処理すべき容量が増えてしまうことになるので、保管や処理の費用が増えることになり、あまりオススメできません。中にはそのまま一般ゴミで捨てる人もいますが、法律違反の可能性があることは頭に入れておいたほうが良いでしょう。

一般的に推奨される清掃頻度

バスケットのゴミ処理:毎日

バスケットに溜まる生ゴミは、グリストラップが正常に機能していても、できるだけ毎日掃除したほうが良いです。ただし、生ゴミや油がほとんど出ない施設や、野菜クズしか出ない施設の場合、2~3日に1回でも問題ないかと思います。それでも、1週間も放置すると強烈な臭いが発生します。

たとえば、精肉店では油は使わないですし、牛脂なども基本的には切り落として専用の冷蔵ゴミ庫などで保管するので、グリストラップへ汚れた排水はほとんどないように思われます。しかし実際は包丁やまな板についた肉の油や、切り落とした際に発生する肉の破片がグリストラップ内に流れ、それが腐ることでキツイ腐敗臭がするようになります。

夏場は営業終了後の厨房内室温が高まり腐敗が早まるなど、そのときの状況にもよりますが、基本的には毎日、とにかく「ゴミを捨てる」だけでも良いので実施するようにしましょう。

表面に浮いている油脂:週1回(多い場合は1日1~2回)

グリストラップの蓋をあけると、まず目につくのが浮上している油です。定期的に清掃できていれば液状ですが、時間が経っているとラードやココナッツオイルのような固形化した油脂になっています。これらを柄杓(ひしゃく)や金網のようなものですくいます。ラーメン屋や中華料理屋のような油の排出が多い店舗では1日1~2回ですが、基本的には週1回ほどで問題ありません。

ただし、石鹸化工法を導入している場合、そもそも廃油がないと石鹸化できないので、基本的には油脂をすくう必要はありません。油の排出が多い業種の場合はすくう必要が出てくるので、石鹸化工法を契約している清掃業者に相談するのが良いでしょう。

底に沈む汚泥(残渣):月1回

グリストラップの底には汚泥や生ゴミなどの残渣(ざんさ)が沈んでいます。これが溜まりすぎると、水の通り道が狭くなり、正常に油脂と水を分離できません。基本的には月に1回ぐらいの頻度で掬う必要がありますが、清掃業者に清掃を毎月依頼している場合はそれで事足ります。業者に依頼していない場合は、月に1回で良いので自分ですくい、産業廃棄物処理として処分しましょう。

グリストラップ槽内:3~4ヶ月に1回

グリストラップの清掃は精神的にも肉体的にも非常にきつい作業です。ましてやグリストラップ全体の掃除を素人がやるなら、相応の準備をしたうえで数時間は覚悟しなければいけません。それでも業者に定期清掃を依頼していない場合、3~4ヶ月に1度のペースで清掃が必要です。油脂や残渣を定期的に掬っていても、やはり側面には油や汚れが蓄積し、トラップ管やその先の配管も少しずつ閉塞(詰まり)していきます。

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